「  怪 我  」

ガチャガチャ!! ガシャン!!

彼女がものすごい仏頂面でピンセットや包帯をのせた 
トレイを俺の脇のテーブルに置いた。

「お・・・おい・・・雪ぃ・・・。」

「古代君は黙ってて!はい、顔をこっちに向けてっ!!」

おっかない雪の口調に俺は素直に雪の方に左のほっぺたを向ける。

この状態じゃ雪の方は見えないけど、雪は薬ビンのフタを開けて
脱脂綿に薬をしみ込ませているようだ。

「じっとしていて、古代君。」

        ピチョピチョ!

「★☆#○!!〜〜!!し・・・しみる〜〜っ!!

「当たり前でしょ!傷口にお薬を塗ってるんだから!!」

「・・・って、もっと優しくして・・・うあっ!!

雪はテキパキと俺の顔に絆創膏を貼ると、今度は右腕の傷に薬を塗りつけた。

痛ってぇ〜〜っっ!

「じっとしてったら!もうっ!!縫わずに済んだことに感謝しなさいっ!」

「ンなこと言ったって痛ぇモンは痛ぇんだっ!!」

「だったら怪我しなきゃいいでしょっ!!」

「仕方ねぇだろっ!こっちだって怪我したくてしたんじゃねぇんだっ!
 いちいちケガの心配しながら敵と戦えるかよっ!!」

雪の優しくない態度につい俺も言い方がキツくなっちまった。

雪はむっつりとした顔のまんま、俺の腕に包帯を巻き終えた。

「はい、もういいわよ!明日もう一度傷口の消毒に来てちょうだい。」

           ぺちっ!

雪が包帯の上から軽くたたいた。

痛ってぇえぇ〜〜っっ!!
                     
ついさっきケガしたばっかりのフレッシュな傷口、たとえ軽くたって
たたかれりゃ飛び上がるほど痛いんだってばっ!!

雪はプイっと俺に背を向けて使った道具をカチャカチャと片付けている。

「おいっ雪っ!!こっちはケガ人なんだぞっ!
 ちょっとは優しくしてくれたっていいだろっ!!」

・・・わかってるわよ・・・。

「え?」

急に雪の口調が弱くなって俺は拍子抜けした。

「・・・もう第一艦橋に戻ってもいいわよ・・・。」

雪がこっちを向かないままそう言うから俺、雪の肩をつかんで
無理やり俺の方を向かせた。

「おいっ!!雪っ!!」

      ・・・俺・・・すっげぇビックリした・・・。


「・・・泣いてるのか・・・?」

「・・・人の気も知らないで・・・。」

「・・・雪・・・。」

「・・・古代君が・・・戦闘班長だってわかってるの・・・艦長代理だってことも・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・ごめんなさい・・・顔を見るまで不安だったから・・・。」

「・・・あ・・・雪・・・。」

「古代君が・・・コスモゼロで出て行くたびに怖いの・・・。不安なの・・・。
 でも・・・ちゃんとヤマトに・・・帰ってきてくれたから・・・。」

「・・・・・・。」

「古代君を止めることなんて出来ないってわかってる・・・でも・・・古代君っ!」



そこまで言うと雪は俺の胸に飛び込んで来た。

「雪っ!!」


「・・・怪我ぐらいなら・・・いいの・・・私がちゃんと手当てしてあげる・・・
 だから・・・古代君・・・絶対に・・・!」


精一杯ここまで言った雪はとうとう泣き出してしまった。

この先は・・・聞かなくてもわかってる・・・。雪の言いたいこと。

もう何度目だっけか・・・この戦いで雪にケガの手当てをしてもらったのは。

戦況はだんだん悪くなる一方だから・・・。仕方・・・ないんだ・・・。

「ごめん・・・雪・・・ごめん・・・。」

雪は俺の胸に顔を押し当てたまま、そっと首を振ってくれた。



      俺は必ず帰ってくるよ・・・君のところへ・・・。

      どんなに傷だらけになったって、必ず。

      この白色彗星との戦いが終わったら・・・絶対に地球へ帰って

      君と結婚するって約束したんだからなっ!!



俺・・・腕の傷が痛かったけど・・・

ここが艦内の医務室だってわかってたけど・・・

雪を思いっ切り抱きしめた。

消毒薬のにおいがいっぱいの医務室の中で・・・雪の香りはすっごく甘かった・・・。














        ────  診 察 室  ────

「あのぉ〜〜、佐渡先生〜・・・。」 「佐渡先生〜〜〜!!」  「せんせぇ〜〜!」

「なんじゃぁ?騎兵隊がそろいも揃ってゾロゾロとなんじゃい!」

「すみません・・・傷の手当てをして欲しいんですが・・・。」

「あん??医務室に雪がおるじゃろうがぁっ!?
 わしゃぁコッチが忙しいんじゃよっ!!」

「いやぁ、それが・・・生活班長さんは今、お取り込み中でして・・・。」

「???なんじゃ、そりゃぁ??」 

                             《おしまい》

                                                                (2003.11.10初出)
                                                                  2004. 9 .7

                                    
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