「DA・KI・MA・KU・RA」



「行ってらっしゃ〜い!」



仕事に出発した彼を玄関で見送り、私は朝食を取ろうとキッチンへ足を向けた。

彼の行き先は火星。

そこでヤマトに搭載する装備の開発が進められていて、その試作品が次々と出来上がっている。

彼はそのテストの為に真田さんに呼ばれたのだ。

1週間しか時間が取れなかったから、きっといろいろな事がみっちりと詰め込まれているに違いないわね。

彼の困りはてた顔が浮かび、私は微笑んだ。

この前の勤務は外周艦体との長期演習だった。

演習は半年間に渡るもので、しかも最初の3ヶ月は地球との交信が途切れたという設定だったから、

顔どころか、声も聞く事が出来なかった。

あなたはぼやきながら、私は泣きながらキスを交わして送り出したっけ・・・・・

                 

まだ”行ってらっしゃい”のキスの感触の残る唇にそっと指で触れる。

古代くん・・・・・・




ピ!ピピッピピッピピッ・・・・・

「キャッ!」

ぼんやりと思い出に浸っていた私は、無機質なアラームの音に現実に引き戻された。

いけない。今日は政務長官との会議が午前中に入っていたっけ。



止まっていた足を動かしてキッチンに向かう。

小さなテーブルの上にはパンくずの散ったお皿と呑み残しのコーヒー、サラダ。

私は新たにジュースを用意すると残り物のサラダとパンの簡単な食事をすました。

食器を片付け、テーブルを整えて時間を確認する。

見上げた時計の針は、7時前を指していた。

「もう少し時間があるわね。」

少しばかり余裕があると思った私は寝室へと向かった。



古代くんと一緒に暮らし始めて、1年が経とうとしているけれど、

仕事の都合上、私たち二人が一緒にいられる時間はかなり少ない。


『長官秘書のユキと、戦艦の艦長の組合せなんだから・・・・仕方ないだろう?』


わかってる。

わかっているんだけれど、少し・・・・・・・・・・かなり、寂しい。

最初の頃は、寂しさを紛らわそうと、友達を呼んだり実家でしばらく過ごしたりしてみたけれど、

今はもうそんな事もしない。

だって。

あなたが帰ってくるまで、あなたの無事な顔をみるまで、寂しさは消えない事を知ったから。





ドサッ





音をたててベッドへと寝転がる。

ふわりとただようあなたの香り。

あなたのぬくもり。

「ん〜〜〜〜。」

しばし、ベッドに懐いていた私はふとある事を思いついて身体を起こした。





彼のパジャマ代わりのトレーナーはきちんとたたまれ、サイドテーブルに置かれている。

それを広げて、その中に彼の使っている枕を入れる。

ちょっとパンパンだけど・・・・これで、よし!

えっと袖には、タオルをくるくると巻いたものを入れて・・・・腕完成!

ん?・・・ちょっと細かったかな?タオルを入れなおして・・・と。

出来た!

彼の等身大ぬいぐるみ・・・・といいたいけれど、さすがに無理があるわね。

その代用品っといったところかしら。

パンパンに膨らんだトレーナーをぎゅっと抱きしめると・・・

あ。柔らか〜い。

適度な弾力と大きさ、柔らかさ。この感触は、まさに抱き枕!だわ。

鍛えられた彼の身体とはまるで違う、柔らかな抱きまくら。

           
それでも、大きく、あたたかいそれを抱きしめていると、とても落ち着いた気持ちになれた。

このまま眠ってしまいたい――――けど。


ほんのちょっぴり目を瞑ったところで、残念ながら仕事の時間。

身体から離すのが寂しくて、もう一度ぎゅうっと抱きしめて、出来たばかりの抱き枕をベッドへ置いた。

うん。なかなかの出来栄え。

抱き枕の古代くん。しばらくの間、どうぞヨロシクね!




「それでは・・・・・行って来ます!」




                                 end

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          mamさんから当サイト開設一周年のお祝いに雪ちゃんの可愛いお話を頂きました。

          遠く離れた彼を想うあまりについつい「即席抱き枕♪」を作っちゃった雪ちゃん。
          そこまで想われている古代君ってば、とぉ〜〜っても幸せモンですよねぇ〜♪

                 mamさん 素敵なお話をありがとうございました♪
                              (2005・9・5公開 同年10・25 えゆう画 挿絵追加)

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