「自動販売機」
作:龍丹さん
ヤマトの第一艦橋は、だだっ広いようで案外狭い。
艦長席からの眺めからするとえらく広いように見えるが、
古代が振り向いてみると大抵間近に艦長席が見えたりするから不思議だ。
・・・それだけ、艦長席というものはいろんな意味で大きいのかもしれない。
航海も長くなると、それぞれがいろいろなことを思い巡らす。
個性豊かなクルーが集まる第一艦橋で、常にいの一番に思いを巡らすのは古代からすると右手・・・
つまり右舷側のコントロールパネルにいる青い矢印の男:地球防衛軍科学技術局主任にして、
ヤマト技師長である真田志郎だ。
ヤマトの危機を救い続ける正義の味方といっても過言ではない彼は、沖田のいなくなった第一艦橋で、
山崎を除けば、若者に年も近くて最もクルーに慕われている大先輩。
そんな真田は、影のヤマト艦長とささやかれても過言ではないほど、とりあえず『凄い』のである。
そんな真田が第一艦橋をうろうろすると大抵何かが起こる。
今日はメジャーを持ってそこここを計っては「う〜ん」と唸っていた。
「どうしたんですか?真田さん」
大抵一番最初に声をかけるのは古代だ。
それから皆がきょろきょろと振り向くのが通例らしい。
「うむ・・・さっき喉が渇いて食堂で水を飲んでたんだが・・・
どうせなら艦橋に自動販売機(ジューススタンド)を設置しようかと思ってな」
「自動販売機ぃ!?」
一同が声を揃えてそう言う中、たいていこういうことには太田が最初に反応する。
「あ、俺、それ賛成です!どうせならホットドックの自動販売機も欲しいですっ!」
「こら、太田!コーヒーやお茶はともかく、職務中の食事は厳禁だぞ」
と島に詰られ頭をぽりぽり掻くはめになるのを分かっていないらしい。
「宇宙空間にいても我々地球人は毎日最低でも1リットル以上の水分は必要だろう。
訓練学校でも『意識して摂取するように』と習わなかったか?」
真田のそんな問いかけに、古代は苦笑いして答えた。
「そりゃぁ習いましたけど・・・なにもここに置かなくったって。
だいたいお金を入れないと出てこないんじゃ、はなから無理じゃないですか」
「ボタンを押せば出てくるようにすればいいんだろう?そんな事はどうとでもできるさ」
古代が周りを見渡せば、どうも皆『自販機設置案』に賛成の表情をしている。
仲間思いの古代はそんな彼等を見て肩をすくめるしかないだろう。
いつも雪に激不味いコーヒーを持ってこられては我慢して飲むのも飽き飽きしたし、
アナライザーに持ってこさせれば無駄話の相手をしなくてはいけなくなる。
しかし・・・という古代の気持ちを知ってか知らずか、真田はマイペースだ。
「まぁ、お前たちがいらないっていうなら、右舷側の俺と太田の近くに設置するよ」
「じゃぁ俺は近いから楽だな」
「島、お前〜」
おいしいところだけを持っていくのが上手なのは、やはり航海班長として、
常に宇宙の『おいしい航路』を進む技能からか?
「ちょっと待って下さい。こっちからじゃ遠いじゃないですか!」
「なんだ、南部も欲しいのか」
南部と相原がいる左舷側からでは、真田達のいる右舷側にいくのにはいささか面倒くさい。
古代の背後、さらに山崎と雪の前をちょこちょこ行き来するのは気が引けるのだろう。
「どうせなら僕と南部の間に置いて下さいよ。その方がこいつの力んだ顔見ないですみます」
「力んでるのは戦闘中だけだろが!」
「ほ〜ら力んだ」
相原と南部は仲がいいのか悪いのかよくわからない。
「皆よく考えてみろ?いざ戦闘が始まった時に、自動販売機が倒れたり、
それに躓きでもしたらどうする?空き缶や空き瓶が転がったら危ないだろう?」
やはり唯一冷静なのは古代一人か。否、もう一人いる・・・のか?
「あら古代君、自分が真ん中にいるからどっちに置かれても面倒くさいとか思ってるんでしょ?」
やはりだめだった。
「雪!お前までそんな・・・」
「私も勤務中に皆の飲み物をお世話する手間が省けてらくだと思うの。
けっこうコーヒー入れるの大変だし」
一同激しく頷いているのは、なにか別の意味があるかららしい。
「じゃぁ真ん中に置くか・・・」
「三次元羅針盤が見えなくなるからやめて下さい!
いいじゃないですか、ワゴンで運んでもらうのだって・・・」
「古代艦長代理は森生活班長に運んでもらうのがいいんでしょうな」
若者たちの奇妙なやり取りを微笑みながら見ていた山崎の鋭い一言。
さすがに長く生きているだけあって、突っ込みどころを知っているらしい。
「そ、そうじゃなくて!!」
真田は古代の横に歩み寄り、突然神妙な顔をした。
「しかしだな古代・・・」
「は、はい!?」
「ワゴンで運んでもらうのはそりゃぁ風情もあっていいが・・・
そんなさなかに戦闘が始まったら・・・お前の後頭部にワゴンが突進して衝突・・・
さらにはその上にあった雪の入れたコーヒーをお前は頭からかぶることになる。
・・・まぁ早い話が『被弾』だな」
「なんで俺って決まってるんですか・・・」
『そりゃぁ雪のいれたコーヒーじゃ古代に吸い込まれていくだろう』と内心だれもが思ったに違いない。
皆、その状況を想像して御愁傷様と手を合わせたい気持ちにもなるだろう。
「戦闘中にあの味にまみれちゃ・・・まともに戦えないぞ、古代」
「そこかよ島!」
ワゴンが後頭部に衝突したり、熱いコーヒーでやけどする可能性はとっくに端折られていた。
「・・・・・って、真田さん!!」
真田はとっくに別の場所を探っていた。
「ここならスペースが広いからいいな。雪や山崎さんからは近いし、
ほかのメンバーからもほとんど距離が変わらなくて平等だ。
出入り口も近いから、中身の補充に我々の後ろを通過する事もない」
「そこは艦長席ぢゃないですかっっっ!!!なにメジャーで測ってるんです!」
しかし今は誰も使っていない。さらに・・・
「ここのコントロールパネルは不安定だし、撤去するか」
「ええ!?」
「山南さんがいっていただろう。ほら、ここが爆発したときに『部品の一個が壊れただけだ』と。
部品一個壊れただけで爆発するテーブルを置きっぱなしにしておくのはどうかと思わんか?」
「さ、真田さん・・・山南さんが言った言葉の意味は・・・」
死んだ山南も天国で訴えているに違いない。意味が違うと。
「それとも何か?・・・これは南部重工のリコール隠しか?ほかのテーブルもそうなのか!?」
「なんでうちなんっすか!!!」
「冗談に決まっているだろう」
クールな真田は冗談を言っても表情が変わらないから怖い。
「もういいですよ真田さん!自動販売機なんてつけなくったっていいです!
だいたい艦長席に置くなんておかしいでしょう!? な?皆もおかしいと思うだろう?」
果たして、彼等は自分達の欲望と艦長席の尊厳とどちらをとるのか・・・
「古代。お前が早くここに座らんからこういうことになる」
「ええぇ俺?・・・俺のせいかよ・・・!?」
皆の答えを待つ前に、真田が一刀両断した。
「ま、うまいことやってみるさ」
最後はいつも、さわやかな笑顔の真田が落ち込んだ古代の肩をポンと叩いて終わる。憎めない男だ・・・。
結局・・・・・自動販売機ははた目では分からないところに設置された。
それが・・・・・『沖田のレリーフ』だ。
ボタン一個でレリーフが反転し、自動販売機が登場するという仕組みになっているのだった。
これには天国の沖田も感心しているにちがいない。
そして『わしのいる時に作ってほしかった』と言っているだろう。
艦長席の尊厳はこうして守られた。やはり艦長席は偉大だった・・・・・。
<<終わり>>
-------------------------------------------------------------------------------------------------
♪ ご自身のサイトでとっても楽しい「ぷちさだだ」のお話を書いていらっしゃる龍丹さんより
これまたとってもマイペースで有言実行(笑)の真田さんと第一艦橋の仲間たちとのやり取りを楽しく(!)
書いて下さいました。 龍丹さんの書かれる「真田パワー」炸裂です!
でもこの後も「自動販売機」だけで済んだのだろうかとふと、考えてしまいました☆
龍丹さん お話をありがとうございました♪ (2005・7・2公開)
←<<戻る>>