『埠頭を渡る風』
この世に生を受けて、20年経つか経たないかのあなた。
本当ならまだ指導者の下で命令を受けるべき立場のはずなのに、
時代のためにたくさんの命を預かって、命令を下す立場に立たざるをえなかった。
命を預かると言う事が、まだ年若いあなたにとってどれだけ重荷になっていたのか。
もしガミラスの攻撃が無ければ、もし白色彗星なんて現れなければ
あなたも私も年相応な毎日を送っていたのに。
流行のファッションを身にまとって、雑誌やテレビで評判のお店で
美味しいものを食べて、毎週末には噂のデートスポットに出掛けて。
きっと、年相応の顔つきで笑顔で毎日を送っていたはずよね。
だけど……
今の私たち、そう、あなたはそんなふうな毎日を送ることは許されなかった。
「……雪……。」
「古代君……。」
お願い、そんな目で私を見つめないで。
「……すまない…雪……。」
お願い、謝らないで……。
いつも強がって、私を困らせていたあなたはどこへ行ってしまったの?
そうよ、私が心配するくらいの強がりのあなたは……。
あなたが言いたい事はわかっている。
あなたがなぜここへ私を誘ったのかも。
悲しい事があると、あなたはいつも一人でここへ来ていたのね。
真夜中に一人、車を走らせてこの海へ。
遠くに見えるメガロポリスの灯りを、この埠頭を渡る風に吹かれながら
一人で見つめていたのね。
繁栄に酔う人たちのことを、戦いで逝ってしまった仲間たちの
ことを想いながら。
「雪……俺は……俺たちは…っ!」
いいの、いいのよ、古代君、
それ以上言わなくても……!
加藤君、山本君、斉藤さん……
私たちの目の前で逝ってしまったたくさんの仲間たち。
そして…
愛する人を失った親友…。
彼らへの想いを後回しにして、自分の幸せを考えられるほど
あなたは器用じゃないもの。
「いいのよ……、こだい…く…ん…。」
「ごめん…っ、雪…!」
あなたがいてくれるだけで、こうして私を抱きしめてくれる腕があるだけで
私は大丈夫なんだから。
結婚と言う形をとらなくても、あなたへの私の想いは変わらない。
それはあなたも同じ……でしょ?
だから、いいのよ。
私の、私たちのことは後回しで。
私は強がるあなたが好き。
いつものあなたに戻って……ね…古代君……。
そしてお願い……
悲しい夜は私をあなたの心のとなりにおいて。
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みーこさんから短編のお話を頂戴しました。
「2」での過酷な戦いのあと、平穏を取り戻した地球が再び復興してゆく様を
目の当たりにしながらとある決断をした古代君とそのフィアンセ、雪。
心の深い傷を一人で癒すのは難しい。けれどそれが二人なら…。
時の流れの力も借りて心癒えた時、必ずや二人の幸せをその手に。
みーこさん 素敵なお話を有難うございました!
(2010・10・28 公開)
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