(四)

一寸進が森大臣のお屋敷で働くようになってどれくらい過ぎたろうか、
日々の鍛錬の結果、一寸進は剣術をはじめとする武術の腕をメキメキと上げ、
学問の難しい内容もよく理解し、中でも草木や虫などのことについては
元々得意としていたことで、今では逆に雪姫さまや侍女たちに教えてやるほどだった。

今日も今日とて、一寸進はとっても仲良くなった酒造どんの愛猫みーくんの
背にまたがってお馬の稽古に励んでおった。

そんな一寸進の姿を優しく見つめるお方がいらっしゃった・・・。


雪姫さまである。


「進・・・この屋敷に来た時はどれだけ励むことが出来るのか
 気にかかっていましたが・・・。今では家来たちの中で一番努力をしていますね。

 何事に懸命に励み、最善の努力を惜しまないのに・・・時折見せる
 寂しそうな横顔・・・ご両親のことを思っているのでしょうか・・・。」

そう心の中でつぶやく雪姫さまの視線はずっと一寸進を追っていた。

「家来の人なのに・・・進を見ているとどうしてこんなに胸が苦しいのでしょう・・・。」

(五)

寒い冬が過ぎて暖かい春がやってきた。

明日は雪姫さまが菩提寺にお参りに行かれるという日、
お供につく家来たちは入念の上に入念な準備に追われていた。

なぜなら、このところ都にはとっても乱暴な鬼が山から現れては
人々に悪さをしていたからだった。

雪姫さまをお守りするために一寸進もみんなと同じく、刀の手入れを念入りにする。

そして万が一のためにと田舎のおっ父が舟と一緒に作ってくれた
『宇宙銃(こすもがん)』もしっかりと調整しておく。

そんな抜かりない準備をする一寸進にある男が声をかけた。

同じくこの屋敷で働く家来の武士、 島 大ノ介だった。

「一寸進どの、明日の準備はいかがでござるか?」

「島どのか。ご覧の通り、万全でござる。」

一寸進は振り返ってキラリ☆と輝く刀を島どのに見せる。

「いよいよ明日だ。」

「ああ、そうであるな。」

「我々はどんなことがあっても、命にかえても姫さまをお守りせねばならぬ。」

「承知の上だ、気を引き締めてかからねばならん。」

一寸進の隣に島どのが腰を下ろす。

「しかし島どの、都に現れると言う鬼とやらは、なにゆえ突如として
 都で悪さをするようになったのであろうか?」

この屋敷へ来てから言葉遣いもすっかり武士らしくなった一寸進は島どのに問う。

「うむ、なんでもその鬼は元々は人間であってこの都に住んでおったらしい。
 その人間であった時に、ずっと想い募らせていた姫君がいたそうだが、
 その姫君は別の殿方のところへ嫁いでしまって、その怒りと恨みから、
 自らの姿を鬼に変えてしまい、時々この都へやってきては、想い続けていた姫君に
 似た女人たちを次々にさらっていくと言うことだ。」

「なんだ、結局その鬼はただの“ねちっこいフラれ男”の成れの果てではないか。」

「・・・・・・ミもフタもない言い方だな・・・。」

「で、鬼はさらっていた女人たちをどうしているのだ?」

「さあ、そこまでは私も詳しいことは・・・。鬼が食ってしまっているとか、
 手ゴメにしているとか・・・。とにかくさらわれていった女人たちは
 一人として都へ戻って来てはおらぬのだ。」

「・・・許せんヤツだな・・・。」

「されば、一寸進どの、明日はよろしく頼むぞ。」

「うぬ、島どの。こちらこそよろしくお頼み申す。」

そうして次の日、身支度を整えた雪姫さまは大勢のお供を従えて菩提寺へ向かった。

(六)

穏やかな日差しの中、無事に参拝を済ませた雪姫の一行は、屋敷への帰途についていた。

そして、とある人けの少ない山道に差し掛かったとき、
突然!!脇の大きな岩陰から大きな金髪の青鬼が現れたっ!!

雪姫さまご一行は蜂の巣をつついたような大騒ぎっ!

「あ〜〜れ〜〜〜っ!!」 「うわぁあ〜〜っ!」 「きゃぁあ〜〜っ!!」

雪姫さまや侍女たちは逃げ惑い、家来の大半は腰を抜かしてへたり込んでしまい、
とても鬼退治どころではなかった。

それでも雪姫さまをお守りしようと残った家来たち。

その中で真っ先に刀を振り上げ青鬼に向かって行ったのは、普段から
「ワレコソハ ユキヒメサマノ イチバンノ ケライダーッ!」と
カタカナで宣言している穴雷左衛門で、彼は人間ではなく“ろぼっと”という
機械で出来た体の男だった。

「ユキヒメサマハ コノワタシガ オマモリイタシマス!
 アオオニメッ!カクゴ───ッ!」

ところが力の強い青鬼にあっという間にやられてしまい、
「ム・・・ムネン・・・ユキヒメ・・・サマァ・・・。」と言う一言を残して
バラバラになってしまった。

「あっ!穴雷左衛門!!よくも・・・。おいっ!青鬼!今度は私たちが相手だっ!」

すらりと刀を抜いて構え、青鬼の前に立ちはだかったのは、
家来たちの中でも剣術の腕は一・二を争う島 大ノ介や加藤三郎左衛門だった。

「覚悟しろっ!!青鬼っ!姫君は貴様になぞ渡さんっ!」

姫に手をかけようとした青鬼はギロリ☆と二人の方を睨んだ。

    「覚悟───っ!」 「たぁ────っ!!」

島と加藤が同時に青鬼に斬りかかって行くのだが、

    ばきっ! どかっ!

青鬼の一撃で二人はふっとばされてしまった。

「・・・こざかしい。」 青鬼は一言吐き捨てると再び雪姫のほうへ向き直る。

「待て、青鬼。姫君には指一本触れさせぬ。即刻この場を立ち去れ。
 去らねばこの山本 明ノ真、容赦なく参る。」

落ち着いた声ながら、キッと青鬼に向かう山本。


              ひゅんっ!!

山本の刀が空を切る!

     どごっ!「うあっ!!・・・」

ところが山本も青鬼に殴り倒されてしまったのだ。


「待て待て待て待てーっ!べっぴんさんはオレが守り抜いてやるぞーっ!」

そういって名乗り出たのは家来の中で一番体格の大きな斎藤 始太郎だった。

斎藤はその大きな大きな体で青鬼に体当たりしたのだが、
強靭な青鬼の前にはかなわず、斉藤は目をむいたまま、どぉっと倒れてしまった。

          最後に残ったのは一寸進ただ一人。

一寸進はすたたたーっと大岩の上にのぼると青鬼に向かって大声でどなった。

「やいっ!青鬼ーっ!次はこの私が相手だ───っ!」

声の方に振り向いた青鬼、一寸進のその体の小ささに鼻先で
フッと小ばかにしたように笑うと、一寸進に人差し指を向けた。

「今度は貴様か、悪いことは言わぬ、おとなしく・・・。」


           ぷすっ!

青鬼が最後まで言い切る前に、一寸進は目の前に突き出された
その人差し指を自分の刀でぷっすりと刺したのだ。


青鬼の片まゆがピクリとつり上がる。

「・・・小僧・・・。」

「へんっっ!お前こそとっととおとなしく山へ帰れっ!!」

青鬼が指を引っ込めた隙に一寸進はとんっ!とんっ!とんっ!と
岩から飛び降り、青鬼を雪姫さまから引き離すため反対の方へどんどん走り出した。

「へっへーんっ!!鬼さんこちら〜っ!このフラれ野郎っ!!」

一寸進はプックリとお尻を向けてペンペンと叩いて見せる。

「こ・・・の・・・小僧・・・もう許せんっ!!」

青鬼のもう片方のまゆもつり上がる。

   どすっ!どすっ!どすっ!どすっ!

青鬼が一寸進を追い掛け回す。


す      たた      たた      たた      たた
 た    た  た    た  た    た  た    た  た 
  た  た    た  た    た  た    た  た    た たた
   たた      たた      たた      たた      た  た
                                       た
                                      た
                                     た
                                    た
                                     た
                                      た
                                       た 
                                        たたたたたたたたたた─! 

ところが一寸進はその身の軽さでちょこまか、ちょこまかと逃げまくるので
なかなか捕らえることが出来ない。

しかし、やっとのことで一寸進を大きな木の根元へ追い詰めた。

あちこち、あちこち逃げ回ったため、一寸進はぜいっ、ぜいっと肩で息をしている。

「小僧、無駄な抵抗などせず、私にやられていればよいものを。」

「けっ!お前なんぞにそう簡単にやられてたまるかよっ!!」

「ふっ、身の程を知らぬやつよのぉ。まぁよい。あの姫は私がいただいて行くことにする。
 今の私にこよなく懐かしい女性(ひと)、須多阿舎姫によく似ているのだよ。フッフッフッ。」

「姫は絶対に渡さんっ!!俺が必ず守り抜くっ!!」

(そうさ、こんなヤローに俺の大事な雪姫さまを奪わせるモンかっ!!)

「たわけたことを。無駄な抵抗はせぬ方がよいと言ったはず。これで貴様も最後だ。」

青鬼は手にした大きな金棒をブンッ!と振り上げた。

「小僧、さらばだ。」


     ヒュンッ    ドカッ!


だが一寸進はヒラリ!ヒラリ!とかわして逃げる!逃げる!!

「ええいっ!こざかしいっ!!」


 ドゴッ! ひょい!ズガッ!! ひらり!


「あぁ・・・進が・・・。」 岩陰に隠れている雪姫さまも気が気ではない。

ところが!走り回る一寸進が石につまずいて転んでしまった!


     びたんっ!!  「おわっ!」


「ふっふっふっふっ。そこまでだ。私の腹の中で溶けてしまうがよい。」

と、言うが早いか、青鬼は転んだ一寸進をピッとつまみ上げると
ポイっと口に放り込み、ゴックン!と飲み込んでしまったのだ!!

「進っ!!・・・あ・・・なんと言うことを・・・。」

雪姫さまや侍女たち、怪我をした家来たちはあまりのことに絶句してしまった。

そして、青鬼はゆっくり振り返ると、雪姫さまへと近づきその腕を取った。

「さあ雪姫、私と共に来てもらおう。」

「い・・・いやですっ!!」

雪姫は懸命に掴まれた腕を振りほどこうと抵抗する。

「おとなしく私の言うことを・・・ぐふっ?!」

雪姫さまに迫った青鬼が突然、腹を押さえて苦しみだした。

「ぐうぅっ・・・ぅおっ・・・は・・・腹が・・・。」

青鬼に飲み込まれた一寸進がその腹の中を刀で切りつけていたのだっ!!!

さらに「コイツでとどめだっ!」と宇宙銃(コスモガン)を取り出し、
腹の中をあたり構わず、撃って撃って、撃ちまくった!!


       ピシュン! ピシュン! ピシュン! ピシュ──ン!


「ぐああああああぁっっっ!」


               ぐふぅっ!  ペッ!!


あまりの痛みに青鬼はとうとう一寸進を吐き出した。

「どうだ!青鬼っ!!これに懲りたら二度と都に出てきて悪さは
 しないと約束し、今すぐ山へ立ち去れっ!!」

しかし、激怒した青鬼の目は真っ赤に血走っている。

「・・・この・・・私を・・・ここまで立腹させたのは・・・貴様が初めてだ・・・小僧・・・。」

「へんっ!まだやるのかよっ!」

またもや青鬼は金棒を振り回し、一寸進を追う。

するりとよけた一寸進はついに腰に下げていた
お守りの“りもこん”の「ぼたん」を押した。


         ──── 屋敷の門番 酒造どんの部屋 ────


   ごごごごごご・・・・  ごとごとごと・・・   がたがたっ!!!


「あん?なんじゃぁ〜?一寸ぼうずの舟が動いとるぞぃ。」

酒造どんがごごごごっと動き出したお椀の舟に手を触れようとしたその時、


ばびゅ─────んんっ!!


ものすごくデカい音を発し、舟が凄まじい速さで部屋から飛び出して行った。

ぶったまげたのは酒造どんである。みんなが留守なのをいいことに
昼間っから酒をかっ食らっていた酒造どんは、
その酒を部屋中にぶちまけてひっくり返ってしまった。

(七)

飛んできた舟に飛び乗った一寸進はおっ父に教わったとおりに操縦すると
青鬼の顔の真ん前に回りこんで“ればー”を引いた。

          
                                    (挿絵提供:ばいかるあざらしさん)
「主砲発射─────っ!!」

ピキュ──ン!!というかわいい音とともに三本の砲身から
白い光が発射され見事にパチュン!パチュン!パチュン!と青鬼の鼻のてっぺんに命中した。

「うぐぅっ・・・。」 鼻を押さえよろめく青鬼はさらに、さ・ら・に大激怒っ!!

「こ・・・この出酢羅亜ともあろう私が・・・こんな小僧に・・・やられるとは・・・。」

ぐぅ〜ん、ぐぅ〜んと頭の周りを飛び回る舟をやっつけようと
なおも青鬼は金棒を振り回す。

「しつっこい鬼ヤロウめ!」

一寸進は今度は真ん中の“とりがー”を握り締め、青鬼のどてっ腹に
舟の正面の「波動砲」を向け、狙いを定めた。

「目標範囲照準器出ろっ!(← これを『英吉利<いぎりす>』の言葉では
 「たーげっと・すこーぷ おーぷん!」と言うそうな・・・。)

       目標、目の前の鬼の腹っ!!
 
 波動砲! 発射──っ!!」


どっっぱぁ────んっ!!

「波動砲」から発射された目もくらむようなまぶしい光線が
青鬼のみぞおちに命中し、青鬼はその衝撃で吹っ飛んでしまった。

「・・・小僧・・・もう・・・許せんっっ!!」

頭の血管がまとめてブチブチと音を立てて完全にキレた青鬼は
それでも腹を押さえながら全身の力を振り絞って立ち上がると
もう片方の手を思い切り振りまわし、目の前を飛んでいる
お椀の舟を叩き落とした。


ばしっ! 「うわあぁっ!」


「きゃぁーっ!進っ!進───っ!!」 「いけません!姫さまっ!出てはなりませぬっ!」

岩陰の姫さまが侍女に抑えられながら思わず悲鳴を上げる。

「ちく・・・しょ・・・ぉ・・・雪・・・姫さまは・・・お・・・れ・・・が・・・。」

舟ごと地面に叩きつけられた一寸進は意識を失い倒れてしまった。

「小僧・・・よくぞここまで抵抗を続けたものだ。褒めてやろう。
 だが、これで終わりだ。」

倒れている一寸進めがけて再び青鬼がグンッ!!と金棒を大きく振り上げた時だった。


  「いやぁ───っ!進っ!!」


止める侍女の手を振りほどいた雪姫さまは岩陰から飛び出し、
倒れている一寸進を自分の背にかばうように青鬼に向き合うと
着物の懐から短刀を取り出してその刃先を青鬼に向けた。


    雪姫さまの目からはとめどなく涙が流れ落ちている・・・。

「・・・ひめ・・・ひ・・・め・・・は・・・。」

意識がないはずの一寸進の口からかすかに声が漏れる。

「進・・・。」

雪姫さまは止まらない涙を拭きもせず、キッと青鬼に
短刀を向けたまま睨み続けている。

傷ついた家来たちも・・・侍女たちも・・・固唾を飲んで見守っている・・・。

(八)

目の前で起こったことを理解する時間を要した青鬼はやがて金棒をそっと下ろした。


「今・・・お前たちが見せたものは何だ・・・。
 私の目には・・・愛し合うものの姿が映っていなかった。
 もう・・・恨みも消えた・・・。小僧・・・姫・・・さらばだ・・・。」


そう言い残すとあれほど大暴れした青鬼が実に、実にあっさりと
雪姫たちの前から立ち去って行ったのだった。

あっけにとられながらも去り行く青鬼を見送った雪姫さまは
青鬼が落としていった物に気がついた。

「まぁ、これはもしや!」

「・・・ぅうっ・・・あっ!姫さまっ!」

「進っ!気がつきましたか?怪我は大丈夫ですか?」

「は・・・い・・・それよりも雪姫さまこそ、お怪我はございませんか?」

「ええ、みなのおかげ、進のおかげで怪我はありませんよ。」

「よかった・・・。」

「さぁ、進、これをご覧なさい。」

「・・・?姫さま、これは?」

「これは『伊須完多理宇霧』という物質で出来た“打ち出の小づち”なのです。」

「打ち出の小づち?」

「そうです。この小づちはどんな願い事も叶えてくれるという不思議な小づち
 なのです。さぁ進、お前の望みは何ですか?何なりと申すがよい。」

「はいっ!私は背が高く、たくましい体が欲しゅうございますっ!!」

雪姫さまは一寸進の心をとろかす笑顔で小づちを振りはじめた。

     「進の体、大きくなぁ〜れ、大きくなぁ〜れ。」

小づちが一振り、一振りされるごとに一寸進の体はぐんぐんと
大きく背が伸び、たくましく立派なりりしい青年になった。

「雪姫さまっ!!」

「進っ!よかった、本当によかったわっ!」

「雪姫さま、私はお屋敷で初めて雪姫さまにお会いしてからずっと
 あなたさまを心から愛しております。
 どうか私の妻になって下さいっ!」

「はいっ!進、喜んで!」

胸に飛び込んできた雪姫さまを一寸進は力強く抱きしめた。


この数日後、青鬼に捕らえられ山奥に連れ去られていた都の女人がたは
改心した青鬼によってすべて開放され、都へお戻りになられたそうな。

──── ◎ ──── ◎ ──── ◎ ──── ◎ ──── ◎ ────

こうして一寸進は青鬼を退治したことで立派な武士として認められ、
また名前も『古代 進之守(こだい すすむのかみ)』と改め、
雪姫さまとの婚約も相整い、この度無事に婚姻の儀が執り行われた。

進之守は田舎の両親も都に呼び寄せ、みんなで末永く幸せにくらしたとさ。

         
          めでたし♪ めでたし♪



加藤:「ちょ〜〜〜〜〜〜〜〜っと待ったぁっ!!俺だって命がけで
    雪姫さまを守ろうと鬼に向かっていったんだっ!!
    なんで古代だけそうなるんだよっ!!」

島:「右に同じく。オレたちは怪我させられただけで終わりなのか?」

山本:「雪姫さまの家来になったのは僕たちの方が先だ。」

斎藤:「べっぴんさーん!オレを忘れちゃいけねーぜっ!!」

酒造:「ワシの出番はあれだけかい。まぁ構わんがの。
    しかしもったいない事をしたわい。ウィ〜、ヒック!」

志郎吉:「姫さま、どうか私にその打ち出の小づちを研究させて下さい。
     数回振っただけで人間の背が伸びるなどと・・・。
     もしや、私の腕や足も??」

穴雷左衛門:「ユキヒメサマー! ソンナヤツト イチャツイテナイデ
       ハヤク モトニ モドシテーッ!」

志郎吉:「よろしい、私が引き受けましょう。打ち出の小づちもよいが
     あなたの体内がどのようになっているのか、ぜひ調べさせていただきたい。」

穴雷左衛門:「ヒョエッ? エッ?ギェ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

志郎吉:「お待ちくださいっ!穴雷左衛門どの!」

  ガンガン☆ ピキピキーッ!!ゴキゴキッ! ガッシャーン! バキッ!


「まぁ、穴雷左衛門は大丈夫でしょうか?」

「なぁに、おっ父・・・いや、父上に任せておけば心配はない。
 青鬼にバラバラにされる前より良くなるはずだ。」

「うふふふ!そうですね、あなたのお父様はとても素晴らしい
 科学者でいらっしゃいますから。」

「しかし・・・。」

「・・・?どうなさいました?」

「・・・あの小づちのおかげで私はたくましい体になれたのだが、
 どうして島どのや加藤どの、おっ父よりもまだ背が低いのだろう・・・?」

「そのようなことでお悩みでしたの?」

「うん・・・欲を言えばもう少し・・・。」

「わたくしには今のままのあなたがいて下さるだけで幸せですわ。」

「姫・・・嬉しいことを申してくれる・・・。」

「まぁ、うふふふふ。」

「・・・さ、雪姫、今宵も夜は長い、もっとそばへおいで。」

「あん♪」

       ・・・そして二人の部屋の明かりは消え、熱い吐息だけが聞こえる・・・。





「お待ち下さい!穴雷左衛門どの!」

「ヒ・・・ヒメサマ───ッ!! ギョエエエェェ〜〜〜〜〜〜〜・・・・。


       ・・・後に残るは穴雷左衛門の阿鼻叫喚だけであった・・・。

     
                               《 終 》 

 
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