「Blue sky, fly high」


3.

振り廻されて、ボロボロだった。
 それでも…何も出来ない現在(いま)より、きっとマシだ。
飛べない戦闘機乗りなんて、犬猫より役に立たない。そこに居る以外の、全くの無駄なんだから。

 出撃(で)たくとも、出られなかった。言い訳のようだが、それが本当。
出られるものなら、とっくに出ていた。それで…もし、死んじまったとしても。
「…生きてるし」
 様々なもののぶちまけられた艦内、薄く残っている煙、血の臭い。
 被弾時の揺れをもう感じない…という事は、終わったんだろう。
 いつか大きな揺れに引っ繰り返されたまま、だから…床に転がったまま。
 何と無く…自分の手を見てしまいながら、そんな事を呟いて。
 そろそろ…と起き上がる。
 そこは静かだった、人の声が聞こえなくて。いや…人の呼吸が聞こえなくて。

  ◇  ◇  ◇  ◇

 このまんまこの惑星(ほし)の大気圏を抜けて、隣の惑星(ほし)の大気圏…は拙いって事で。
 補修作業に追われつつ、已む無く高高度を周回中。
 …それだけ派手に、ぶっ壊れていたという事だ。艦体が。

「内部(なか)も、滅茶苦茶だけどな」
「…言うな。分かってても」
 口惜しいけれども、死んじまった連中は「片付ける」しか無い。
 俺たち…生き残った奴の、最初にやった事は「誰が生きていて、誰が死んだのか」確認する事。
 生きてる奴の方が多くてほっとした…なんて事は、内緒。
 出撃(で)られなかった艦載機隊に較べて、やっぱり…狙い撃ちされたらしくて一気に半分居なくなった砲塔要員に。
 何だか…南部に対して悪いな…と思った事なんて、もっと内緒。
「…つーか、どーするんだよ。これ」
 加藤だけじゃなく、誰も彼も溜息吐いてみせるのも当然。
 出なかったんだから、全ての機は格納庫(ここ)に在る。
 だが、敵本星(ここ)での戦闘に被弾(あ)てられまくって大いに揺さ振られた結果、固定外れて半分ばかり落ちていて。
 仮に、今。敵襲だ、出撃(で)ろ…と言われても、かなり無理だ。
「外板の補修終わったところで、真田さんにアナライザーでも廻してもらうしか無いだろ」
 現在(いま)だって、人力と起重機(クレーン)で細々と片付けている最中だが、遅々として進まない。
 うっかり…これ以上壊したくないから、機械を殆ど使ってないからだ。
 その点、アナライザーなら「壊すなよ」と言っておけば、その程度の気は使ってくれる。
「外板の補修…って、いつ終わるんだよ?」
「島が『出発するぞー』って、言った時…だろ?」
「…なるほど」

 要するに、格納庫(ここ)のようやく片付くのは、隣の惑星に針路向けた後…って事だが。
 それは、その数日後…だった。

 補修作業の為の周回中、窓から何度も蒼い惑星(ほし)を見た。
 海と空気が光を反射(はじ)いて、吸い込まれそうに透き通るような。淡い、優しい色をした。
 海が漠(ひろ)過ぎるようには思うが、あれは…映像の記憶に在った地球と同じだ。
「…人、居ねえのかな?」
 夜半球の眺めに、気付いたのは加藤の方だった。
「ほら…地上に灯り、見えねえだろ?」

  ◇  ◇  ◇  ◇

 加藤もやっぱり、馬鹿でも無いらしい。
 本当に…この惑星(ほし)には、人が居なかった。たった、1人だけしか。
「古代の兄貴が居ただろ」
「それを言うなら、俺たちだって現在(いま)居るだろうが」
 住人が1人、後は…全て異邦人。
「あ、そか」
 せっかく見直してやったところだが、やっぱりこいつは馬鹿だ…と思い直す事にした。

「1人…って、どんなもんかな?」
「知るか」
 山本にだって、両親(おや)が居る。加藤にはそれプラス、弟も居る。
 どちらも、物心付いた時からずっと「1人」だった事が無い。
 訓練学校に入学(はい)ってからも、教室に寮の部屋に、1人にされた事なんて無い。
 ヤマトに乗務(の)ってからだって、加藤が個室を戴いた以外は似たようなものだ。
 戦場に飛んでいる時でさえ、視界に通信に、何処かと…誰かと繋がっていたから。
「ただ…お前なら泣くぞ、絶対」
 寂しいよ…と。きっと、必ず。
「はあ?俺ぁ、そんなガキじゃねえぞ?」
 当の本人は、そんな事は無い…と一言に否定したが。いや…多分、きっと。
「だって、お前…黙ってられないだろうが。他人様にちょっかい掛けるのも、止められねえし」
 本当に否定するつもりなら、押し黙ってみせろ。
 俺の隣からとっとと立ち去って、自室(へや)にでも籠(こも)ってみせてくれ。
 …出来ないだろう?

「ああ…ちきしょーっ。こういう空、飛びてえっ!」
「止めろ。地球人の恥を曝(さら)すな」


                                          
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